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仙台高等裁判所 平成2年(行コ)2号 判決 1992年12月28日

控訴人

東北測量株式会社

右代表者代表取締役

有馬正継

右訴訟代理人弁護士

倉地康孝

右訴訟復代理人弁護士

太田恒久

石井妙子

被控訴人

青森県地方労働委員会

右代表者会長

高橋牧夫

右指定代理人

貝出繁之

渡辺利雄

坂上眞

小野慧

藤本幸男

櫻田喜代司

成田哲郎

被控訴人補助参加人

全日自労建設一般労働組合青森県本部

右代表者執行委員長

工藤勝三

被控訴人補助参加人

全日自労建設一般労働組合青森県本部東北測量分会

右代表者執行委員長

松原征夫

右両名訴訟代理人弁護士

山下登司夫

山田忠行

渡辺義弘

右山田忠行訴訟復代理人弁護士

小野寺義象

右渡辺義弘訴訟復代理人弁護士

横山慶一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が青地労委昭和五九年(不)第一二号不当労働行為救済申立事件について昭和六一年八月五日付でした命令主文第一項ないし第三項を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人及び補助参加人ら

主文同旨

第二当事者双方の主張

当事者双方の主張は次のとおり補正するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人

1  原判決三枚目表三行目冒頭から同四枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

(1) 本件命令主文第一項に関し、補助参加人らが不当労働行為を構成すると主張した具体的事実は、「補助参加人らの昭和五九年度賃金引上げ要求に対し、控訴人が零回答している実情下で、控訴人が誠実に団体交渉に応じたといえるためには、単に口頭で数字を示すなどして経営の実態を説明するだけでは不十分であり、書類としての経理資料、具体的には「過去数年の具体的受注状況・貸借対照表・損益計算書(付属明細書を添付して)等の財務諸表、今年度の収支見込、月別決算書等」を提出する必要があるのであり、控訴人がこれを提出しなかったのは労働組合法七条二号に該当する不当労働行為である」というものであり、補助参加人らが請求した救済の内容も右の事実に対するものである。

しかるに、被控訴人が本件命令主文第一項において、控訴人は、団体交渉について、補助参加人らに対し、控訴人の経営実態を具体的に把握し得る資料を提示する等、誠意をもって応じなければならない旨の救済を命じたのは、補助参加人らが不当労働行為を構成するとして主張した右具体的事実以外の広範囲に亘る不当労働行為を認定した点及び補助参加人らが請求する救済の内容を超える救済を裁量権の範囲を逸脱して認めた点に違法がある。

(2) また、被控訴人は、補助参加人らが不当労働行為を構成すると主張した右具体的事実及び請求した救済の内容を無視して、本件命令主文第一項において、控訴人に対し、将来補助参加人らから申し入れられることのあるべき全ての賃金引上げ及び一時金の団体交渉について誠意をもって団体交渉に応じるよう命じており、また同項には、その内容として、「控訴人の経営実態を具体的に把握し得る資料を提出する等」と例示されているが、本件命令の理由をみても、これを限定ないし特定する趣旨とは解されないから、本件命令主文第一項は、控訴人の尽くすべき義務の内容を特定していない抽象的救済命令であって、労働委員会の裁量権の範囲を超える違法な処分である。

2  同五枚目表八行目の「補助参加人ら」から同末行から同裏一行目にかけての「提出せしめ」までを「控訴人は、これまでの団体交渉において、補助参加人らが書類としての経理資料の提出を要求するのみで、団体交渉の進展をみなかったので、昭和六〇年三月九日の団体交渉においては、控訴人の経営実態について更に具体的に明らかにすべく、過去三年間に亘る損益状況について、決算書等に基づき主要な数値を黒板に書いて説明した上、同年四月三〇日の団体交渉においては、控訴人が説明した経理上の数値のほかにどのような数値を知りたいのかを具体的に申し出て貰えば、更に説明すると申し入れ、これをめぐって団体交渉を進展させようと努めたにもかかわらず、その後補助参加人らはこの点について何らの申し出もせず、団体交渉を続行、進展せしめようとする態度に全く出なかったことに鑑みると、補助参加人らが前記のような書類としての経理資料を提出することを控訴人に対して固執したのは、控訴人の経営実態を知るためではなく、右経理資料そのものを提出せしめこれを入手することにあったというべきであり」と改め、同二行目の「ものである。」の次に「すくなくとも、控訴人がそのように信じるについては相当な理由があった。」を加える。

3  同九行目の「仮にそうでないとしても」から同六枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

右(5)で述べたとおり、控訴人が補助参加人らにおいて更に知りたい経理上の数値があれば申し出るよう提案し、控訴人がこの申し出に応じ団体交渉で説明する用意をして臨んでいたにもかかわらず、補助参加人らがその後何らの申し出もせず、またこれをめぐって団体交渉を続行、進展せしめようとする態度に全く出なかったことからすると、補助参加人らには控訴人の経営実態を知る必要はなかったとみるべきであるから、この時点においては、もはや補助参加人らには救済利益がなくなったというべきであり、本件命令は、この点についての判断を誤った違法がある。

4  同一〇行目の「また原告の」から同末行の末尾までを次のとおり改める。

殊に、補助参加人ら組合員に対する指名解雇にとどまらず、非組合員をも含めて、今後単なる希望退職者を募集する場合にまで、補助参加人らとの事前協議を義務づけていることは、控訴人の使用者としての固有の権能に対する不当な制約であって違法である。

二  被控訴人の当審における主張

本件命令主文第二項については、控訴人と補助参加人らの労使関係が極度に対立した状態にあった(その主たる原因は控訴人にある。)ため、このような状態のなかで、いささかでもその衝突を和らげ、労使関係の将来にわたって改善させようとの配慮のもとに、労使関係の基本である雇用関係の当面する問題の扱いについて、被控訴人がその裁量の範囲で命じたものである。

三  補助参加人ら

1  原判決一二枚目表九行目の次に改行のうえ次のとおり加え、同一〇行目冒頭に「2」を加える。

1  本件命令主文第一項に対応する不当労働行為を構成する具体的事実は、「補助参加人らからの昭和五九年度の賃上げ要求に対し控訴人が誠意をもって団交に応じなかった」というものである。すなわち、使用者が誠意をもって団交義務を尽くしたといえるためには、組合側の要求に対して対案を示し、その対案を理解してもらうための資料の提供を含むものであり、何らの対案を示さず、また何らの資料の提供もしないで組合の要求を拒否することは誠意をもって団交義務を尽くしたことにはならない。本件においては、控訴人は、労働者にとっても最も重要な労働条件の一つである賃金額の決定について零回答に終始しているのであるから、何故零回答なのかを控訴人の経理資料、少なくとも過去数年の具体的受注状況、貸借対照表・損益計算書(付属明細書を添付して)等の財務諸表、今年度の収支見込み、月別決算書等を補助参加人らに提供して具体的に零回答の説明の必要があるのである。控訴人は、経理資料の提示が、<1>団交の対象が労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃上げ要求であること、<2>この賃上げ要求に対して、控訴人が零回答に終始しているということを前提としての問題であるのに、経理資料の不提示のみが不当労働行為を構成するとして主張された事実であるとして勝手に切り離し、一般的に経理資料を提供、開示する必要があるか否かという問題にすり替えて主張を展開している。

2  同一三枚目表二行目から三行目にかけての「五年以上にわたって」を「七年間も」と、同四行目の「実施せず、」から同六行目の「置かれているのである。」までを「実施しなかった。このため組合員の収入は同業他社と比較すると大幅の格差がつけられた。そして、控訴人は、平成二年以降賃上げ、一時金について有額回答を行っているが、各従業員に給付される支給額の査定幅を明らかにせず、これを明示することを頑なに拒否している。」と各改める。

第三証拠関係

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は次のとおり補正するほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一四枚目表六行目の「争いがない。」の次に次のとおり加える。

また、(証拠略)によると次の事実を認めることができる。

補助参加人らが求めた救済の趣旨は、<1>被申立人(控訴人)は、申立人組合(補助参加人ら)の昭和五九年度賃上げ要求に関し、誠意をもって団体交渉に応じなければならない、<2>被申立人は、昭和五九年一〇月一七日の団体交渉で発言した経営改善の名のもとの、第二次希望退職の募集、指名解雇を行ってはならない、及び<3>右<1>と<2>の不当労働行為につきポストノーティスを求めるというものであった。補助参加人らは、右救済手続において申立書及び準備書面で、控訴人の不当労働行為の意思が認められる事実関係として、分会結成当初からの控訴人の補助参加人らに対する不誠実な対応、干渉、支配介入の事実を主張し、同年度賃上げ要求に関し控訴人が誠実に団体交渉に応じないという不当労働行為を構成する事実として、<1>同年三月一六日からの同年度の賃上げ要求の団体交渉の申入を分会と県本部の連名であることを理由に控訴人が拒否したこと、<2>控訴人は逆に雇用調整を対象として団交を申入れ、同年度から昭和六一年度の賃上げ、昭和五九年度と昭和六〇年度の夏期・冬季一時金についての団体交渉において、賃上げ及び一時金の支給を一切拒否しながら口頭でのお座なり説明に終始し、具体的な資料に基づき経営状態につき説明をしようとしなかったこと、<3>昭和五九年一〇月一七日の団体交渉で、補助参加人らを嫌悪、敵視して指名解雇等を行う旨の意思表示をしたことを主張した。そして、控訴人が昭和六〇年一月一一日付準備書面で「会社は経営実態を説明し、とても賃上げができるような状態でないことを数字を示して協力を求めているから、資料の提出要求に応じないとしても不誠実とはならない」旨の主張したのに対し、補助参加人らは、同年四月六日付準備書面で、「実質的な団体交渉がなされるには、使用者側の解決案(反対提案)及びその資料を組合側に提供することが前提要件であり、ことに、本件は昭和五八年度の賃上げ、夏期・冬季一時金につき零回答であり、昭和五九年度の賃上げ要求に対しても零回答に終始しているのであるから、控訴人の経営状態を示す具体的な資料、『過去数年の具体的受注状況・貸借対照表・損益計算書(明細書を添付して)等の財務諸表、今年度の収支見込、月別決算書等』を提供して具体的に説明するのでなければ、誠意をもって団体交渉義務を尽くしたとはいえない」旨主張した。

2  同表九行目の末尾の次に「、原審証人種市昭彦の証言により真正に成立したものと認める丙第四号証の一、二」を、同一〇行目の「原告代表者」の前に「原審における」を各加え、同裏二行目の「一〇〇名」を「一二〇名」と、同三行目の「九〇名」を「七〇名」と、同八行目の「証人種市」から同九行目の「認められる」までを「前掲」と各改める。

3  同一五枚目裏九行目の「原本」の前に「丙第一五号証」を加え、同一六枚目表一行目の「第七六号証、」の次に「第七八ないし第八〇号証、」を、同五行目の「第一五二号証、」の次に「第一六七号証、」を、同八行目の「六及び八」の次に「当審における被控訴人分会代表者松原征夫尋問の結果により真正に成立したと認める丙第六四号証」を加え、同行目の「証人」の前に「原審」を、同行目の「証言」の次に「、当審証人有馬宣道の証言(後記措信できない部分を除く。)」を、同行目の「原告代表者」の前に「原審における」を、同一〇行目の「原告代表者」の前に「当審証人有馬宣道及び原審における」を各加える。

4  同一九枚目裏四行目、同二〇枚目表一行目、同裏一〇行目、同二一枚目裏六行目及び同末行の「原告」を「控訴人代表者有馬正継」と各改める。

5  同一六枚目裏五行目の「までである。」を「までであるが、賃金の引上げについては四月から翌年の三月が対象となる。」と、同一八枚目裏七行目の「過去二年間」を「昭和五六年八月一六日から昭和五八年一月一五日までの間」と各改め、同八行目の「差額」の次に「約二二〇〇万円」を加え、同九行目の「昭和五八年度中に、合計約二七〇〇万円を支払った。」を「同年一二月三〇日に約一一〇〇万円、昭和五九年一月一七日に約一一〇〇万円を支払った。なお、時間外労働賃金については、右の外に、労働基準監督署の是正勧告により同年五月三〇日に約五〇〇万円が支払われている。」と、同一九枚目裏一〇行目の「原告は」を「控訴人には」と各改め、同一〇行目から同一一行目にかけての「過去大幅な残業をさせていたのだから、」を削り、同二一枚目裏二行目の「昭和五七年度」の前に「一年以上前に決算をなした」を加え同行目の「いわゆる赤字決算」を「赤字に近い決算」と改め、同二四枚目裏五行目の「、原告が」から同七行目の「を求め」までを削り、同二五枚目表一行目末尾に「なお、右黒板に書かれた受注額は受注額ではなく売上額であった。」を、同裏九行目の「原告は、」の次に「決算書は建設省に提出され、補助参加人らの閲覧が可能なものであるのに、」を加え、同二六枚目表二行目の次に改行のうえ「(8) 控訴人は、その後、平成元年度まで七年間賃上げを行わなかったが、平成二年度からは経常利益が出るようになったとして賃上げを行っている。そして、平成四年度の賃上げ交渉においては、控訴人代表者有馬正継は、平成三年度の決算の概要は平成四年六月下旬に明らかになるとして、その頃までに回答したいと言明している。」を各加える。

6  同二六枚目表七行目の「証人種市」の前に「原審」を、同八行目の「原告代表者」の前に「原審における」を、同二七枚目表八行目の「前掲」の次に「甲第一号証、乙第一三二号証、」を、同九行目の括弧の次に「、当審証人有馬宣道の証言(前記及び後記措信できない部分を除く。)」を各加え、同一〇行目の「三月以前二年間」を「一月以前一七か月間」と、同末行の「二七〇〇万円」を「二二〇〇万円」と、同行から同裏一行目にかけての「このうち昭和五七年度以前の労働に対して支払われた分」を「右約二二〇〇万円」と、同二行目から同五行目にかけての括弧の部分を「なお、控訴人の昭和五八年度の営業利益は一三六三万五〇〇〇円の赤字であったが、右約二二〇〇万円が内部留保されていたとすると八三五万五〇〇〇円の利益が計上されていたこととなる。」と各改め、同七行目の括弧の次に「、当審証人有馬宣道の証言(前記及び後記措信できない部分を除く。)」を、同八行目から同九行目にかけての「売却したこと」の次に「、同年度から新規採用を中止し、希望退職者の募集をしたこと、昭和五七年度決算から株主配当を中止したこと」を、同二八枚目表一〇行目の「積み増しされていること」の次に「(なお、有形固定資産は昭和五九年度は四億八五六三万二〇〇〇円とやや減少したが、昭和六〇年度は五億四一〇〇万円に増加している。)、有価証券に対する投資を昭和五七年度は約一〇一〇万円、昭和五八年度は約二一〇万円、昭和五九年度は約五六〇万円行っていること」を各加える。

7  同裏二行目から三行目にかけての「乙第一四三号証、」の次に「丙第七三号証、」を、同行目の「証人」の前に「原審」を、同行目の「証言」の次に「、当審証人有馬宣道の証言(前記及び後記措信できない部分を除く。)」を、同四行目の「原告代表者」の前に「原審における」を、同末行の「これを」の次に「預金し」を各加え、同二九枚目表二行目から三行目にかけての「明確にしていないこと」を「、明確にしておらず、控訴人が完全な形ではなかったにしろ実行した従業員の積立との同額積立の内訳や合計も明確にしていないこと」と改め、同行目の「数億円を下らない」を「約七億円の」と改め、同四行目の「株式」の次に「二二五万株」を加える。

8  同三一枚目表八行目の「単なる口頭の説明を」を「単に受注額が三〇パーセント減少していること、一年以上前の決算が赤字に近い状態であったこと、昭和五八年度の決算で経常損失が出たこと、道路台帳の仕事がなくなると受注が減少すると口頭で説明」」と、同三二枚目表一〇行目の「出たものである」を「出たものであり、すくなくとも控訴人がそのように信じるにつき相当の理由があった」と、同末行の「主張し、」を「主張する。しかし、補助参加人らが提出を要求した経理資料のうち決算書は建設省に提出され、補助参加人らの閲覧が可能なものであるから、これを提出することを拒む理由はなく、右決算書を利用して補助参加人らが不当な対外宣伝活動をなしたとの証拠はない。」と各改め、同行目の「乙第一九六号証」の次に「並びに当審証人有馬宣道」を加え、同裏一行目の「これに」を「右控訴人の主張」と改め、同四行目の次に改行のうえ次のとおり加え、同五行目の「(一)」を「(二)」と改める。

(一)  控訴人は、本件命令主文第一項に関し、補助参加人らが不当労働行為を構成すると主張した具体的事実は、書類としての経理資料を提出しないことであり、請求する救済の内容も右の事実に対するものであるのに、被控訴人が本件命令主文第一項において、「控訴人は、団体交渉について、補助参加人らに対し、控訴人の経営実態を具体的に把握し得る資料の提示をする等、誠意をもって応じなければならない」旨の救済を命じているのは、補助参加人らが不当労働行為を構成するとして主張した右具体的事実以外の広範囲に亘る不当労働行為を認定した違法があり、かつ被控訴人の裁量権の範囲を逸脱して、補助参加人らが請求する救済の内容を超える救済を認めた違法がある旨主張する。

しかしながら、前記一認定のとおり、補助参加人らが本件命令主文第一項に関し明示的に求めた救済の範囲は、控訴人は、補助参加人らの昭和五九年度賃上げ要求に関し、誠意をもって団体交渉に応じなければならないというものであり、右救済の範囲に対応する不当労働行為を構成する事実も単に経理資料の提出にのみ限定されていたわけではないことは明らかである。控訴人が経理資料の提出につき主張したのは、昭和五八年度の賃上げ、夏期・冬季一時金につき零回答であり、昭和五九年度の賃上げ要求に対しても零回答に終始しているのであるから、控訴人の経営状態を示す具体的な資料を提供して具体的に説明するのでなければ誠意をもって団体交渉義務を尽くしたとはいえないとして、使用者の誠実に団体交渉に応ずる義務の一内容を主張したものであり、経理資料の不提出のみが他の事実から切り離されて控訴人の不当労働行為を構成する事実とされていたわけではない。したがって、この点に関する控訴人の主張は失当である。

9  同三三枚目表五行目の「認定のとおりであるが、」の次に「その後の賃上げ、一時金の団体交渉において補助参加人らからの要望する項目について具体的に補助参加人を納得させる努力をしたと認めるに足る証拠はなく、」を、同裏二行目の「おそれがあるときは」の次に「(前記一認定のとおり、補助参加人らは、昭和五九年度のみならず、同年度から昭和六一年度の賃上げ、昭和五九年度と昭和六〇年度の夏期・冬季一時金についての団体交渉において、控訴人は賃上げ及び一時金の支給を一切拒否しながら口頭でのお座なり説明に終始し、具体的な資料に基づき経営状態につき説明をしようとしなかったと主張しており、前記三認定の事実及び原審証人種市昭彦の証言及びこれにより真正に成立したと認める丙第一、二号証によると、昭和六〇年度及び昭和六一年度の賃上げ並びに昭和六〇年度の夏期・冬季一時金の団体交渉において、控訴人は具体的な資料を示して補助参加人を納得させるような説明をしてはいないと認められる。)」を各加える。

10  同裏一〇行目冒頭から同三四枚目表二行目まで、同裏一行目の「遅くとも」を各削り、同二行目冒頭から同行目から同三行目にかけての「そうでないとしても」を「における」と改め、同五行目の「原告主張の」から同七行目の「また、」まで、同九行目の「ないしこれと同等の経理資料」を各削る。

11  同三五枚目表五行目の「乙第一九六号証」、同三六枚目表三行目及び同九行目の「第一九八号証」の次に「並びに当審証人有馬宣道」を、同裏一行目の「人員削減」の次に「(組合員を殊更除外するというようなことは通常あり得ない。)」を各加え、同三行目から四行目にかけての「原告と補助参加人らとの間の協議を希望退職者募集及び指名解雇実施の条件とした」を「控訴人が、補助参加人ら組合員に及ぶ可能性のある(本件命令の認定事実に照らし、その趣旨であることは明らかである。)指名解雇及びこれを予定した希望退職者の募集をする場合には、予め誠意をもって補助参加人らとの協議を命じた」と改める。

二  よって、原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 永田誠一 裁判官 菅原崇)

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